1. 高校プログラム選択戦略(Gymnasieprogram)
KTH進学を第一目標とする場合、選択すべきプログラムは実質2つに絞られます。それ以外(EstetiskやSamhällsなど)からの進学は「Naturvetenskapligt basår(科学基礎年)」を追加で履修する必要が生じるため、最短ルートではありません。
各プログラム概要とKTH適合性
| プログラム |
概要 |
KTH適合度 |
特徴 |
| Natur (NA) |
理学系。数学、物理、化学、生物を深く学ぶ。 |
最適 (A+) |
"Natur-Natur" 専攻を選べば、KTHのすべてのプログラムの入学要件を自動的に満たす。 |
| Teknik (TE) |
技術系。工学、IT、デザイン、建築に特化。 |
非常に高い (A) |
工学特化だが、Kemi 1やFysik 2、Matematik 4を意図的に履修する必要がある。 |
| Estetisk / Samhälls |
芸術・社会系 |
低 (C) |
必修レベルが低いため、卒業後にKomvuxやBasårで単位を取り直す必要がある。 |
結論: KTHを目指すなら NA (Inriktning Natur) が最も安全。TE (Teknik) を選ぶ場合は、必ず数学と物理を最大化する選択を行うこと。
プログラム内で選べる科目と戦略
KTHの Civilingenjör(5年制エンジニア)入学には Matematik-fortsättning Nivå 2 (旧 Matematik 4), Fysik 2, Kemi 1 の「Behörighet(前提資格)」が必須です。
1. 数学 (Matematik) の優先度
- cトラック(理系数学)が必須(1c, 2c,...)。
- Matematik-fortsättning Nivå 2 (旧 Matematik 4): Civilingenjörに必須。
- Matematik-fördjupning Nivå 1 (旧 Matematik 5): 加点1.0(Meritpoäng)対象となり、大学数学の予習として極めて重要。
- Matematik Specialisering: KTH志望者の多くが履修する発展科目。加点0.5
2. 科学科目の配置計画
- Fysik 1 & 2: 工学系の最重要科目。Fysik 2は難易度が高く、ここで高得点を取れるかが鍵。
- Kemi 1: 必須。TEプログラムでは選択科目扱いの場合があるため注意。
- Naturkunskap: NAやTEでは、物理・化学・生物の履修により自動的に免除・代替される。
3. 加点戦略(Meritpoäng)
最大 2.5ポイント の加算を狙うことが合格への近道です。
- Engelska Nivå 3 (旧 Engelska 7): +1.0 ポイント(スウェーデン育ちの生徒にとっては非常に効率が良い)
- Moderna språk 3/4: +0.5 / +1.0 ポイント(第2外国語を続ける価値は高い)
- Matematik: 入学要件を超えるレベル(例:Matematik–fördjupning)で加点。
2. 大学入学ルート比較(Gymnasiebetyg vs Högskoleprov)
スウェーデンの大学入試は、主に「高校の成績」と「共通テスト」の2つの枠(Urvalsgrupper)で競います。
A. Gymnasiebetyg(高校成績:BI / BII 枠)
- Meritvärde(成績評価値): A=20, B=17.5, C=15, D=12.5, E=10, F=0。
- 計算式: 全科目の平均点(最大20.0) + Meritpoäng(最大2.5) = 最大 22.5点
- KTH合格ライン目安: 人気学部(Teknisk Fysik等)は 21.5 ~ 22.3(ほぼオールA+加点必須)。Datateknikは 21.0 ~ 22.0。「体育」や「歴史」など、理系科目以外でもAを取らないと、トップ学科は厳しい。
B. Högskoleprov(大学共通試験:HP枠)
- 構成: 数学・論理(Kvantitativ)と言語(Verbal:スウェーデン語・英語読解)の2部構成。
- 点数: 0.0 ~ 2.0 のスケール。定員の少なくとも 1/3 はこの点数だけで決まります。
- 利点: 高校の成績が悪くても、HPで高得点を取れば 帳消し(リセット) 可能です。KTH目安は 1.4 ~ 1.8。
戦略: 「高校の成績を維持しつつ、Högskoleprovで保険をかける」のが鉄則。2年生の春から受験し、形式に慣れておくことが推奨されます。
3. 科目別戦略と優先順位
- Matematik(数学): 優先度最高。Matematik 1c〜 Matematik-fortsättning 2cまで全て「A」または「B」を目標に。Matematik 1cでのつまづきは後のレベルに直結します。
- 科学科目: Fysik 2は概念が難しくなりますが、工学部の基礎として必須。
- 言語: Svenskaの読解力はHPに直結。Engelska Nivå 3 (旧 Engelska 7) は大学準備とMeritpoäng(+1.0)のために履修を強く推奨。
- Moderna språk: 日本語母語話者の場合、日本語試験(Prövning)で加点を稼げるか学校に要確認。
4. 進学準備と実行計画(年次計画テンプレート)
År 1 (Gymnasiet 1年生)
目標: 学習習慣の確立と数学基礎の完成。Matematik 1c & 2cで確実に高得点を取る。Moderna språkを継続するか決定する。
År 2 (Gymnasiet 2年生)
目標: 最も負荷が高い時期。Matematik-fortsättning 1c & 2c (旧 Matematik 3c & 4), Fysik 2, Kemi 1が山場。Högskoleprovの試し受験を開始し、弱点を把握する。
År 3 (Gymnasiet 3年生)
目標: 最終成績の最大化。Matematik-fördjupning (旧 Matematik 5)やEngelska Nivå 3 (旧 Engelska 7)を履修。Gymnasiearbete(卒論)で高評価を狙い、4月15日までに出願完了。
5. Gy25(Ämnesbetyg)の決定的な違いと計算例
最大の違いは、「成績の挽回が可能か(上書きルール)」 という点です。
これまでのシステム(Gy11)では、一度取った科目の成績は「確定」され、後から成長しても計算上は低いまま残りました。新しいGy25 では、教科(Ämne)としての最終的な到達レベルが評価されるため、「終わりの良さがすべてを上書きする」 という仕組みに変わります。
Gy25のämnesbetygシステムの基本原則
Gy25は、2025年7月1日から施行された新カリキュラムで、上級中等教育(Gymnasieskolan)と成人教育(Komvux)の両方に適用されます。従来のkursbetyg(コース別評価)からämnesbetyg(科目別評価)に移行し、以下の特徴があります:
- レベル構造: 科目は「知識の梯子」(kunskapstrappa)としてレベル分けされ、Engelskaの場合:
- Nivå 1: 旧 Engelska 5相当(100ポイント、基礎レベル)。
- Nivå 2: 旧 Engelska 6相当(100ポイント、応用レベル)。
- Nivå 3: 旧 Engelska 7相当(100ポイント、 advancedレベル、Meritpoäng目的のオプション)。
- 置き換え原則: 高いレベルの合格成績(godkänt betyg, E-A)を取得すると、それが下位レベルの成績を置き換え、科目全体の最終評価(slutbetyg)となります。これは、高いレベルが下位レベルの知識を包含しているためです。
- Skolverketの公式ガイドラインによると、「Varje godkänt betyg på en högre nivå ersätter tidigare betyg」(高いレベルの合格成績が以前の成績を置き換える)。
- 不合格(Fまたは-)の場合のみ、置き換えが発生せず、下位レベルの成績が残ります。
- 目的: 早期の低評価が全体に影響しにくくし、学習者のストレスを軽減。ただし、置き換えにより高いレベルでの低成績が逆効果になるリスクがある。
具体例:英語(Engelska)の場合
シナリオ: 高校1年生で英語が少し苦手だったが、高校2年生で猛勉強して得意になった生徒。
- 1年目: Engelska 5 (Gy11) / Engelska nivå 1 (Gy25) で C (15点) を取得。
- 2年目: Engelska 6 (Gy11) / Engelska nivå 2 (Gy25) で A (20点) を取得。
1. 旧システム (Gy11: Kursbetyg)
コースごとに成績が独立して確定。1年目の「C」は卒業まで計算に残ります。
- Engelska 5 (100p) × C (15点) = 1,500
- Engelska 6 (100p) × A (20点) = 2,000
- 合計: 3,500 ÷ 200p = 平均 17.5点 (B相当)
結果: 1年目のCが足を引っ張り、満点(20.0)になりません。
2. 新システム (Gy25: Ämnesbetyg)
教科全体として評価。高いレベルでAを取れば、過去の成績もAとして上書きされます。
- Engelska (合計200p) として評価
- 最終レベル(Nivå 2)がA ⇒ 教科全体がA扱い
- 計算: 200p × A (20点) = 4,000
- 合計: 4,000 ÷ 200p = 平均 20.0点 (A相当)
結果: 最終的に実力をつければ、成績は満点(20.0)に挽回可能です。
リスクシナリオ: Nivå 3 (旧 Engelska 7)を選択し成績 Eを取った場合
- Nivå 3でEを取得すると、科目Engelskaの全体評価がEになります。下位レベル(Nivå 1や2)の成績(例: AやB)が上書きされ、examensbevis(卒業証明書)上ではEngelskaのslutbetygがEとして記録されます。
- 理由: 高いレベルが下位を包含するため、Nivå 3のEは「全体の知識水準がE相当」と見なされる。
- 例: Nivå 1でA、Nivå 2でA、Nivå 3でEの場合、最終評価はE。以前のAは消滅し、置き換えられる。
- 対照的に、Nivå 3でFの場合、置き換えなしでNivå 2のAが残る。
- 例外と過渡期の考慮: 過渡期(2025年7月1日~2030年6月30日)では、Gy11のkursbetygとGy25のämnesbetygを混合可能。Gy11でEngelska 6のAを持っていれば、Gy25でNivå 3のEがそれを直接置き換えないケースがあるが、レベル3を完了すると原則置き換えが発生。
- リスクの現実性: 多くのソースで指摘されるように、Nivå 3の低成績は全体を下げる可能性があるため、受講前に自信度を検討すべき。
- Meritvärdeへの影響とリカバリー戦略
- 大学入試のMeritvärde(競争値)はjämförelsetal(平均成績)+Meritpoängで計算されます。Nivå 3のEは置き換えにより全体評価をEにするが、計算上は有利に調整可能。
- 調整ルール: Nivå 3はutökad kurs(追加コース)として扱われ、低成績がjämförelsetalを下げる場合、計算から除外可能。Meritpoäng1.0は保持される。FrågaSYVのアドバイス: 「Ett lägre betyg i Engelska nivå 3 sänker inte det befintliga A i Engelska 6」
数学(Matematik)の特殊ルール
KTHを目指すあなたにとって重要な数学には、この「上書きルール」に伴うリスクを避けるための安全策が用意されています。
もし「数学1〜5」がすべて一つの教科だと、レベル5(非常に難しい)で失敗した時にレベル1〜4の成績まで下がってしまう恐れがあるため、Gy25では数学が複数の「教科」に分割されました。
- Matematik (一般数学): 基礎となるレベル。Mathmatic 2cで高得点を取れば基礎部分はすべて高得点になります。
- Matematik–fortsättning (数学-継続): Matematik–fortsättning 2cで高得点をとれば数学-継続レベルが高得点になります。基礎レベルの成績には影響しません。
- Matematik-fördjupning (発展数学): 応用レベル。もしここで失敗しても、基礎数学および数学-継続レベルの成績には影響しません。
戦略的アドバイス:
Gy25は 「諦めない生徒」 に圧倒的に有利なシステムです。同じ科目内であれば最初に多少つまづいても、その教科の最終レベル(Fysik 2やMatematik 2c)で高得点を取れば、高評価を得られるチャンスがあります。
6. Engelska Nivå 3 (旧 Engelska 7)の実態と戦略
Engelska Nivå 3は、スウェーデンの高校における英語の最高レベル(選択科目)であり、日本の一般的な高校英語とは質・難易度ともに大きく異なります。
難易度の目安(比較表)
| 指標 |
Engelska Nivå 3のレベル感 |
| CEFR |
C1 (Advanced) - ネイティブに近い運用能力が求められるレベル |
| 実用英語技能検定 |
「1級」に相当 - 合格(E判定)するだけでも準1級上位の実力が必要。最高評価(A判定)を取るには1級合格レベルの語彙と構成力が不可欠。 |
| IELTS / TOEFL |
IELTS 7.0 ~ 7.5 / TOEFL 100点前後 - 多くの海外大学院への進学要件を満たすレベル |
| 日本の大学入試 |
東大・京大・早慶(国際教養)の2次試験以上 共通テスト(旧センター試験)レベルは遥かに超えています。 |
何が「難しい」のか?(質の違い)
日本の高校英語との決定的な違いは、「英語を学ぶ」のではなく「英語で思考し、論じる」授業である点です。
- 授業内容: 単語テストや文法問題は出ません。「社会言語学(英語の歴史や方言)」「複雑な文学作品の分析」「レトリック(修辞学)を用いた説得力のあるスピーチ・エッセイ」が中心です。
- 日本でいうと: 「現代文(国語)」の授業を英語で受ける 感覚に近いです。
- × 「この文章を和訳しなさい」
- ○ 「この記事の著者が使っているレトリック手法を分析し、その効果について批判的なエッセイを書きなさい」
日本人留学生にとっての「壁」
スウェーデンのクラスメートは幼少期から英語メディアに触れており、ほぼネイティブと同等の流暢さを持っています。
- スピーキングの壁: ディスカッションではネイティブ並みの速度で意見が飛び交います。沈黙していると「参加していない」とみなされます。
- アカデミック・ライティング: 単に英語が書けるだけでなく、欧米式の論理構成(Paragraph writing, Thesis statement)を完璧に使いこなす必要があります。
それでも取るべきか?(戦略的判断)
KTHを目指す場合の判断基準:
- メリット: 最高評価の Meritpoäng(+1.0点) が付与されます。これは非常に大きいです。
戦略アドバイス:
もし現在の英語力が「英検準1級ギリギリ」程度であれば、Engelska Nivå 3で「A」を取るのは至難の業です。無理をして成績(Betyg)を落とすと元も子もありません。
- [✓] 自信がある場合: 絶対に取るべきです(1.0ポイントの加点は強力な武器になります)。
- [!] 不安な場合: 無理に履修せず、その時間を数学(Matematik-fördjupning)や物理(Fysik 2)の完成度を高めることに使うのも賢い戦略です。あるいは、卒業後に Prövning(追試制度) で時間をかけて点数を取る方法もあります。
Resources & links